制度理解2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

同一労働同一賃金後の待遇変化と読み解き方

この記事の要点

「同一労働同一賃金って聞いたことはあるんですけど、自分の給料が変わった実感がないんです」

皆さま、こう感じたことはありませんか。2020年(中小企業は2021年)に施行された、いわゆる「同一労働同一賃金」の制度は、パートタイム・有期雇用労働法の改正と、労働者派遣法の改正という2つの法律を通じて、非正規雇用者の待遇改善を目指すものでした。ただ、制度が施行されて数年が経ったいまも、「実感がない」という声は僕の周囲でも珍しくありません。今回は、この制度が本来どう機能するはずのものなのか、そして自分の待遇がその通りになっているかを確認する具体的な見方を書きます。

0. 前提 — 派遣の同一労働同一賃金には「2つの方式」がある

まず知っておくべき前提があります。派遣社員の同一労働同一賃金には、①派遣先の正社員と均等・均衡待遇を図る「派遣先均等・均衡方式」と、②派遣元が労使協定を締結し、その協定に基づいて待遇を決める「労使協定方式」の2つがあります。実務上、多くの派遣会社は労使協定方式を採用しています。この場合、待遇は派遣先の正社員と直接比較されるのではなく、厚生労働省が公表する「同種業務の一般労働者の平均的な賃金水準」を基準に決まります。どちらの方式が適用されているかは、派遣元から交付される「就業条件明示書」や「待遇に関する説明書」で確認できます。

1. 何が「同一」の対象になるのか

同一労働同一賃金が対象とするのは、基本給だけではありません。賞与、各種手当(通勤手当・皆勤手当・時間外手当の割増率等)、福利厚生(食堂・休憩室の利用、慶弔休暇等)、教育訓練の機会まで、幅広い待遇項目が対象です。「基本給は変わらないのに賞与だけ新設された」というケースも、制度としては正しい運用であり得ます。自分の待遇のどの項目が、いつ、どう変わったかを個別に確認する必要があります。

2. 待遇に関する説明を「求める権利」がある

労働者派遣法では、派遣労働者が派遣元に対して、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求めることができると定められています。派遣元はこの求めに応じる義務があり、説明を求めたことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。率直に言うと、この権利を実際に行使している派遣社員はまだ少数派だという印象を僕は持っています。疑問があれば、まずこの「説明を求める」という一手から始めてください。

3. 実感が薄い方に多い3つのパターン

面談で話を聞いていると、実感が薄いという方には、いくつかの共通パターンがあります。1つ目、労使協定方式の内容を一度も確認していない。就業条件明示書を受け取ったまま、詳しく読んでいないケースです。2つ目、賃金水準の見直しが「地域指数」で説明されており、自分の地域の相場を知らない。労使協定方式の賃金水準は職種・地域ごとに設定されており、把握していないと変化を実感しにくくなります。3つ目、賞与や退職金相当額が別立てで支給されているのに、月給だけを見て「変わっていない」と判断している。総支給額ではなく月給だけで判断すると、制度の効果を見落とします。

4. 確認すべき3つの書類

実際に確認作業をするなら、次の3つの書類を手元に用意してください。①雇用契約書(労働条件通知書):基本給・諸手当の内訳。②就業条件明示書:派遣先均等・均衡方式か労使協定方式かの明記。③待遇に関する説明書:賃金決定の考え方、賞与・退職金の有無。この3つを見比べれば、制度がどう適用されているかがかなり具体的に分かります。

5. 待遇改善が正社員化の交渉材料になる場合

同一労働同一賃金による待遇改善は、正社員化を目指す際の間接的な材料にもなります。例えば、賞与や退職金相当額が既に支給されている場合、正社員転換時の待遇交渉で「現状からどれだけ上乗せされるか」を具体的に比較できます。正社員化の5つのルートのどれを選ぶにしても、今の待遇を正確に把握していることは交渉の土台になります。

6. 制度を過信しない、という視点も必要

誤解がないように申し上げると、同一労働同一賃金は万能の制度ではありません。労使協定方式で定められる賃金水準はあくまで「同種業務の一般労働者の平均」であり、正社員そのものの待遇に完全に一致するわけではありません。制度を理解した上で「それでもなお正社員の待遇に届かない部分」を冷静に見極めることが、次の一歩の判断材料になります。

7. 確認して初めて気づいた、2人の話

対比をひとつ紹介します。どちらも同じ派遣会社に登録している、事務職の30代の方です。

Eさんは、制度が変わったことは知っていましたが、「特に変わった実感がない」と感じたまま数年を過ごしていました。ある時、当メディアの記事をきっかけに就業条件明示書を読み直したところ、実は労使協定方式が適用されており、賞与相当額として年2回・合計で基本給の1.5ヶ月分が支給されていたことに初めて気づきました。月給だけを見ていたため、これまで見落としていたのです。

Fさんは、制度改定のタイミングで自分から派遣元に説明を求め、賃金水準の根拠となる「地域指数」と自分の職種の一般賃金水準を確認しました。結果、自分の時給が水準をわずかに下回っていることが分かり、是正を申し入れたところ、時給が改定されました。

2人とも、制度自体は同じように適用されていました。差がついたのは、書類を確認したかどうか、疑問を言葉にしたかどうかです。

8. よくある質問

Q. 待遇に納得できない場合、どこに相談すればいいですか。まずは派遣元の担当者に説明を求めてください。それでも納得できない場合は、都道府県労働局の需給調整事業室や、総合労働相談コーナーに相談する制度があります。

Q. 派遣先が変わると、待遇の基準もリセットされますか。労使協定方式の場合、賃金水準は職種・地域ごとに設定される一般的な基準に基づくため、派遣先が変わっても大きな考え方は継続します。ただし、個別の手当等は派遣先や契約内容によって変動する場合があるため、契約更新時に確認する習慣をつけてください。

9. 賞与・退職金相当額という「見えにくい待遇」

労使協定方式の下では、賞与や退職金についても「相当額」が支給される設計になっているケースが一般的です。ただし、これは月給とは別建てで、年1〜2回の賞与として支給されたり、退職金相当額として時給に上乗せされたりと、支給の形がさまざまです。「見えにくい」からこそ、見落とされやすいのがこの部分です。就業条件明示書に「退職金前払いとして時給に含む」といった記載があれば、それは制度上の退職金相当額です。月給の額面だけを見て「待遇が変わっていない」と判断する前に、こうした見えにくい項目まで確認する習慣をつけてください。

10. 派遣先均等・均衡方式が適用される場合の見方

労使協定方式ではなく、派遣先均等・均衡方式が適用されている場合は、確認の視点が少し変わります。この方式では、派遣先の正社員(比較対象労働者)と、あなたの待遇が均等・均衡になっているかが基準です。派遣元は、派遣先から比較対象労働者の待遇情報を取得し、それに基づいて待遇を決定する義務があります。この場合も、待遇に関する説明を求める権利は同様に行使できます。どちらの方式が適用されているか分からない場合は、まず派遣元に確認することから始めてください。方式によって確認すべき比較対象が異なるため、この一点を押さえるだけで、その後の理解が格段にスムーズになります。

11. 制度改定は今後も続く前提で捉える

同一労働同一賃金の制度は、施行後も細部の運用が見直され続けています。「一度確認したから安心」ではなく、契約更新のタイミングごとに確認し直す習慣を持ってください。特に、最低賃金の改定や労使協定の更新時期には、賃金水準が見直されることが多くあります。年に1〜2回、就業条件明示書を見直すだけの手間で、自分の待遇が制度どおりに更新されているかを継続的に把握できます。

最後にもう一点。制度の説明を求める際は、口頭だけでなく書面やメールなど記録が残る形でのやり取りをおすすめします。「言った・言わない」のトラブルを避けるためにも、確認の記録を残しておくことは、あなた自身を守る備えになります。

(結論)まず、自分の3つの書類を読み直す

まとめます。同一労働同一賃金は、基本給だけでなく賞与・手当・福利厚生まで対象にした幅広い制度です。実感が薄い方の多くは、制度の内容ではなく確認作業そのものをしていません。3つの書類を読み直し、疑問があれば説明を求める。この2つのアクションだけで、自分の待遇の全体像がかなりクリアになります。

皆さんいかがでしたでしょうか。制度は知っているだけでは機能しません。使って初めて意味を持ちます。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 同一労働同一賃金の実感がないのはなぜ?

実感が薄い方には共通パターンがあります。労使協定方式の内容を一度も確認していない、賃金水準の地域指数や自分の地域相場を知らない、賞与や退職金相当額が別立てで支給されているのに月給だけを見て判断している、といったケースです。総支給額ではなく月給だけで判断すると制度の効果を見落とします。まずは3つの書類を読み直すことをおすすめします。

Q. 待遇を確認するにはどの書類を見ればいい?

次の3つの書類を用意してください。基本給・諸手当の内訳が分かる雇用契約書(労働条件通知書)、派遣先均等・均衡方式か労使協定方式かが明記された就業条件明示書、賃金決定の考え方や賞与・退職金の有無が分かる待遇に関する説明書です。この3つを見比べれば、制度がどう適用されているかがかなり具体的に分かります。

Q. 待遇に納得できない場合はどこに相談すればいい?

まずは派遣元の担当者に説明を求めてください。派遣元には説明義務があり、説明を求めたことを理由とした不利益取り扱いは禁止されています。それでも納得できない場合は、都道府県労働局の需給調整事業室や総合労働相談コーナーに相談する制度があります。説明を求める際は口頭だけでなく書面やメールなど記録が残る形でのやり取りをおすすめします。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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